スピーカの近くでは音がよく聞こえますが,徐々に離れて行くと聞こえにくくなり,ついには全く聞こえなくなります.当たり前のことですが,この事実を真剣に考えて何かに応用しようとする人はほとんどいません.どのように応用するかというと,音の聞こえ具合と音源との距離は密接な関係がありますので,位置検出に使えるのではないかと思えるからです.
音は,音波が空気を振動させ,そのエネルギーが伝播することで遠くまで到達します.しかし,空気中を伝播する間にエネルギーの一部は吸収され,最終的には振動が伝わらなくなります.どのくらいの距離まで振動が伝わるかは,音源のパワー,空気の密度,音速などによって決まりますが,空気の密度や音速は日常生活の場ではほとんど一定と考えられますので,音源の出力が与えられれば音の到達距離の推定ができます.音はマイクロフォンによって検出することが可能です.マイクロフォンは音波,すなわち,空気の振動を検出すると,その大きさを電気信号に変換して数値化することができますので,音源のパワーがわかれば振動量を測定することで音源までの距離が推定できるのです.音源が1つしかない場合は1次元的な距離しか推定できませんが,3つ以上あれば3次元空間における位置検出が原理的には可能となります.ただし,ここでいう位置検出とは音源に対する相対位置を表しますので,音源の絶対位置はあらかじめ与えられなければなりません.しかし,スピーカなどは一度設置したら頻繁に動かすものではありませんので,部屋のどこにあるかは既知の事実とすることができるでしょう.
実際にこのような測定をしてみると,壁や地面の反射,さらには他の音波との干渉などによって安定した結果が得られないかもしれませんが,音源パワーを小さくしたり,体育館のように十分大きな空間で実験を行うと,それなりに結果が出るものです.音源のパワーと距離の関係は音響工学などの教科書に詳しく出ていますので,参考にして頂ければと思います.
当たり前の現象にもかかわらず,それが応用されていないとうことはよくあります.応用方法に気づかない場合もあるかもしれませんが,ほとんどの場合何かが問題で実用化されていないことが多いです.そのような問題点を科学的・技術的に理解し,その解決策を考えるというアプローチができる人は研究者に向いているかもしれません.
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