2010年6月21日月曜日

バイノーラル録音

音楽を聴くときに,スピーカから聴くよりもヘッドフォンを用いて聴いたほうがより良い音に聴こえます.それは,耳に近いところに音源があるため,外部のノイズや変な反射が起きないからです.しかし,良いことばかりではありません.スピーカから聴こえる音は耳までの距離が左右異なるため,その到達時間の差によって立体感を味わうことができますが,ヘッドフォンの場合は左右の音がちょうど頭の中央に位置しているように感じ,頭内定位という現象が起きます.これは,頭の中で音が鳴っているように感じるため,大きなボリュームで長時間音を聴いていると頭が痛くなります.

この問題を解消し,かつ,臨場感を与えるために考案されたバイノーラル録音という技術があります.この録音方式は,人間の頭の形を真似たダミーヘッドという人形を用い,その左右の耳の中にマイクロフォンを設置します.こうすることで,実際に人間の鼓膜に届く音響信号に近い音で録音することができるため,その録音された音をヘッドフォンで聴くと立体感・広がり感が出るのです.また,左右それぞれの耳で聴こえる音を録音するので,頭内定位の問題もある程度解決されます.

バイノーラル録音には欠点もあります.人間は前からやってきた音か後ろからやってきた音かの区別もできます.これは,音源から左右の耳までの距離が微妙に異なるため,その差異が前後の判別に役立っているからです.しかし,バイノーラル録音では頭を回転させても音源も一緒に回転してしまいます.テレビ画面を見ている時にヘッドフォンでバイノーラル音声を聴いている際,頭を少し回転させたとしても前方から聴こえている音は常に本人の前方からしか聴こえないため,前後方向の立体感を味わうのが難しいです.さらに,ダミーヘッドを用いてバイノーラル録音された音は,ヘッドフォンと耳との間の音響特性とは異なりますし,また,ダミーヘッドと実際の人間の耳および胴体を含む音響特性も異なるので,完全に録音状態を再現することはできません.

このように,いくつかの問題点はありますが,実際にバイノーラル録音された音は臨場感のある再生できますので,音楽アルバムなどに利用されています.耳は音を受信するための感覚器官ですが,そこにマイクロフォンを置くことで臨場感を出すというアイデアはとても素晴らしいものです.

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