2010年6月23日水曜日

ハース効果

人間の耳は不思議なセンサです.耳というより脳と言うべきかもしれませんが,面白い現象を紹介したいと思います.今,2つのスピーカから等距離の位置で音を聴いており,2つのスピーカから同じ音が出力されているとします.当然,左右の耳から同じような音がほぼ同じ音量で聴こえるはずです.この状態で,片方のスピーカから出力される音の信号を少しだけ遅らせて(数十ms程度)再生したとき,どのような音が聞こえるでしょうか?実は,片側から遅れた音が聴こえるのではなく,遅らせていない信号が出力されているスピーカの方から,音が聞こえてくるように感じます.このような効果をハース効果といいます.すなわち,音の定位が中央からはずれ,最初に出力されたスピーカの方に移ります.人間の脳は遅れてくる音は聞かないような制御をしているようですね.

ここで面白いことを考えてみたいと思います.音と同じことを映像で行ったらどうなるでしょうか?今,2つのテレビが目の前に左右並んで置かれており,同じ映像が流れているとします.このとき,片方の映像を少しだけ遅らせて流した時,どのような映像を見ているように感じるのか,大変興味があります.ただし,このとき音は流れていないこととします.はたして,遅らせていない映像が流れているテレビのほうから映像が流れてくるように感じるのでしょうか?
このような実験を実際にやってみたことはありません.映像は光の信号として目に飛び込んでくるので,音の場合と同じように数十msの遅延をかけた場合その値が大きすぎてハース効果が現れないかもしれません.しかし,もっと遅延を小さくすると,もしかすると映像がやってくる方向もずれるなんてこともあるのかもしれません.ただし,人間の眼がどの程度の時間差まで検知できるのかに寄るかもしれません.

たわいのない妄想かもしれませんが,視覚に関してもハース効果のようなものがあるとすれば,体感する映像信号の進路が曲げられたことになります.実際には光は曲がっていないのですが,人間から見ると,時間的に少し異なる2つの同じ映像は,道筋を曲げられた1つの映像と考えることができそうです.この現象は,大きな重力があると光が曲げられるという一般相対性理論と似ています.実際に天体観測でこのような現象が観測されています.ある銀河系の裏側に強いエネルギーを出す天体があり,その天体の出す光が4つに分かれて見えるというものです.それら4つの光は同じ光を出していることが詳しい観測でわかり,しかもその光の変化に時間差があるということです.この現象を銀河系の後ろにある天体の立場に立って見た場合,異なる4つの光源から同じ光が少しだけの時間差を持ってやってきた時,ある1つの方向から来る光に見える,というように解釈できないでしょうか?

空想(妄想)に空想(妄想)を重ねた議論かもしれませんが,実際にこんなことがあったら面白いですね.映像に関するハース効果の”妄想”が一般相対性理論と大きく違うのは,強い重力というものを考えていないことです.しかし,こんなふうに科学と工学を結びつけて考えると,新たな発見ができるかもしれません.すぐ目の前に転がっているけど気づかない,そんなことが発見なのでしょう.

0 件のコメント:

コメントを投稿