コンピュータというと,電子メールの送受信,ホームページの閲覧,映像や音声の再生などができるパソコンを示すのが一般的になっていますが,もともとは計算機であることは言うまでもないでしょう.計算機のはじまりを突き詰めていくと紀元前にまで遡ります.今から3000年以上も前,バビロニアに計算機の基本となるものが存在しました.バビロニアは地理的にはメソポタミア南部地域で,現イラクがある場所です.当時,地面に描いた線を跨いで小石を移動させることで簡単な計算を行っていました.英語で「計算法」のことをcalculusといいますが,その語源はラテン語のcalculiで,「小石」を表すことからもその歴史がうかがえます.この計算法は「アバカス(今のそろばん)」として発展し,中国経由で室町時代に日本へ入ってきました.アバカスは使い方によってはかなり複雑な計算を行うことも可能で,工学や天文学の計算にも使われていました.
アバカスが数百年間利用された後,16世紀にスコットランドのジョン・ネーピアが「ネーピアの骨(棒)」を考案しました.ネーピアの骨は複数の数字が書かれた棒で,それらを並べることによって,乗除算,平方根,立方根などの計算を行うことができました.まさにマジックスティックとよぶに相応しい計算機です.ネーピアは対数法の創始者としても有名です.それもそのはず,対数の乗算および除算は,加算および減算として計算できることを利用して,複雑な計算を実現していたのですから.本当に天才ですね.
ネーピアの骨のアイデアは,その後1600年代にイギリスのウィリアム・オートレッドによって計算尺として継承されました.計算尺はその計算内容によって種類が違いますが,関数計算も可能であり,電卓が開発されるまで科学計算などに長い間使われ続けました.
このように考えると,現代科学のほとんどの技術が電気を使わない計算機によって生み出されてきたことがわかるでしょう.もちろん,計算速度や有効桁数に関しては電子計算機に勝てませんが,ほとんどの計算は電気を用いなくても結果を出せるのです.
最近のパソコンでは,MicrosoftのExcelなど,スプレッドシートと呼ばれる表に値を入力するだけで,人間が計算という行為をほとんど行わなくても計算結果が正しく出力されます.このようなツールばかり利用していると,計算の原理を理解する必要がなくなってしまいますので,新たな計算法の創出は難しいかもしれません.今一度,そろばんや計算尺に戻って計算法の仕組みを振り返ってみると,電子計算機時代には考えつかないような新しい発想が出てくるかもしれません.
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