テレビや雑誌で商品の宣伝をする際,通常,芸能人など多くのファンがいる有名人を起用します.なぜなら,自分の好きな人が宣伝する商品を購入することで,その有名人と気持ちを共有できるという心理的な効果を期待するからです.もちろん,その有名人は出演料をもらうというビジネスを行っており,その商品を本当に好きかどうかは知る由もありません.
商品広告に対するこの手法は,特にうさんくさい商品に対してはとりわけ有効でしょう.しかし,明らかに売れると思われる商品にも,ダメ押しというくらい多額の予算をかけて制作したと思われる広告が多いのは事実です.しかし,本当にそのような手法を使わないと商品は売れないのでしょうか?まさに今,大ブームを巻き起こしているアップル社のiPadの宣伝を思い出してみてください.テレビのCMでも盛んに出て来ますね.あれだけ有名な商品なので,きっと多額の広告費を使っているのではと思われますが,実は有名人は誰ひとり出演していません.「えっ,そうなの?そういえば・・・」,などの声が聞こえてきます.iPhoneやiPodのCMを思い出しても,有名人は出ていなかったのではないでしょうか?アップル社の商品のCMは,商品を前面に出し,それを使う人の姿は表に出てきていません.印象に残る音楽は使っているかもしれませんが,モデルという人件費にはお金をかけていません.そこが凄いところです.さらに感心することは,テレビのCMに出てきた時は既にその商品の存在を一般消費者は十分知っているということです.インターネット時代では,海外商品の情報もメディアがいち早くキャッチし,ホームページ,ブログ,ニュース,メールマガジンなどで紹介されますので当然といえば当然ですが,それは他社の商品も同じことです.
では,アップル社の場合は何が違うのでしょうか?それは,アップル社の最高経営責任者であるスティーブ・ジョブス氏の哲学にあると思います.ジョブズ氏は,みんなが「ワクワク」するような商品,というコンセプトを重要視しており,そのデザイン,性能,そして,操作性に至るまで決して手を抜かず,納得のいくまでその仕様にこだわります.その哲学が商品自体に生気を吹き込み,人々を魅了するのです.結果として,発売前から新商品の噂や憶測が話題となり,それを伝えるメディア自体が既に広告と化しています.そのようになってしまえば,もはや有名人を投入する広告は必要ありません.
技術者にとって,アップル社のような商品を世に出す仕事は大きなやりがいにつながります.その社員の気持ちがさらによい発想,よい技術を生み,それらの好循環が爆発的なヒットを生んできたのは言うまでもありません.今年の5月には,アップル社はマイクロソフト社の時価総額を追い抜いたというニュースが流れました.時価総額とは,株単価に発行済株式数を乗じたもので,企業規模を示す指標として使われます.今のアップル社にとっては有名人をモデルに使う広告費など,あまり大きな支出とは考えないのかもしれませんが,商品そのものの価値だけでこれだけの売上を達成したという事実は歴史に残る大成功ということができるでしょう.技術立国といわれてきた日本においても,商品自体で勝負できるような発想と技術の向上を祈るばかりです.
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