学校教育は大きく分けて,初等教育,中等教育,そして,高等教育の3つに分類されます.それぞれ,幼稚園・小学校,中学校・高等学校,そして,大学・大学院にて行われる教育と考えるとわかりやすいと思います.今回は,このうち高等教育に焦点を当ててみたいと思います.
文部科学省の学校基本調査によると,大学,大学院修士課程,大学院博士課程,大学院専門職学位課程,短期大学,高等専門学校が高等教育機関とされています.これらすべての機関についてお話することはできないため,大学,大学院修士課程,大学院博士課程の3つにおいて身につけるべき能力を考えてみます.
まず,大学に関してですが,通常学生は専門性の高い学部・学科に属し,卒業論文あるいは卒業研究を完成させます.大学の低学年までは,研究のための教育がほとんど行われていないのが現状です.通常,学生は卒業最終年度に指導教員の研究室やゼミに配属され,その教員のアドバイスを受けながら卒業論文や卒業研究を完成させます.ここで重要なことは,研究のプロセスを身につけることと,論文という活字体による成果物を制作することです.研究のプロセスは分野によって差がありますが,工学系の場合は現状で何が問題なのかを理解するとともに,それを解決するための提案を行い,定性的,あるいは,定量的な評価によってその提案の有効性を論じます.理学系の場合は,未だよくわかっていない現象をどこまで解明できたかという点が評価に値します.先にも述べましたが,大学ではこれらのステップを教員の指導に基づいて完成させる能力を身につけることが要求されます.
大学院修士課程では,何か問題にぶち当たった時にそれを独力で解決する能力が要求されます.つまり,研究課題において解決すべき問題をどのように対処すべきか提案し,その提案の有効性を検証するためにどのような評価を行ったらよいかを考え,独力で結果を出すことが必要です.大学卒業に要求される能力より高度であることがおわかりでしょう.
大学院博士課程では,その名の通り博士の学位を取得することが目標となるわけですから,人並ならぬ努力が必要です.大学院修士課程との大きな違いは,自ら研究課題を設定する能力が要求されることです.与えられた課題について取り組み,問題を解決するだけでは博士の学位は取れません.どのような研究が世界のどこでも達成されておらず,そして,それを達成させることの学術的意義をしっかり認識したうえで研究課題を設定できなければなりません.また,学会論文誌などいわゆる査読を必要とされる論文投稿を行い,厳格な審査の結果その論文が採択されることも必要です.すなわち,新規性と有効性の高い提案と,査読者を納得させるだけの論理展開と文章能力も要求されます.
このように考えると,高等教育と言ってもそこには様々な段階が存在します.大学院博士課程で要求される能力は確かに特殊性・専門性が強いので,必ずしも一般の社会生活において必要とされないかもしれません.しかし,人を納得させるための論理展開能力とプレゼンテーション能力は会社で働く人にとってはとても重要です.多かれ少なかれ,人間は社会生活をしていれば様々な問題に遭遇し,何とかそれを解決していきます.そして,自分と異なる意見を持つ人と仕事をする必要がある場合は説得するためのノウハウも身につけていきます.つまり,大学院教育で必要とされる能力ですら,ほとんどの人が人生経験において身についていくものなのです.では,わざわざ大学院という教育機関があるのは何故でしょう?それは,専門性の高い分野に特化することでシステマティックに短期間で効率的にそれらの能力を身につけるためです.すなわち,そのような能力が既に身についている人は会社に入ってからあえて指導する必要もありませんので,会社としては余分なコストを書けなくて済みます.理工系大学院修了者の就職が良好なのも納得がいきますね.著しく専門性が高い分野を除き,どのような学問を専攻したかではなく,受けた教育課程において要求される能力がしっかりと身についているかどうかが最も重要なことです.
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