2010年5月29日土曜日

宇宙空間での実験

昨日,JAXA筑波宇宙センターに行ってきました.JAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構)は2003年10月に宇宙科学研究所,航空宇宙技術研究所,宇宙開発事業団の3機関が統合してできた組織です.筑波宇宙センターはこのうち宇宙開発事業団の施設を受け継いだもので,国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟においてミッションを遂行する宇宙飛行士の訓練場所でもあります.一般の見学では訪問できない研究室にもお邪魔することができ,大変勉強になりました.

宇宙空間において研究を行う理由として,大気や重力が無い場所での物質や生命の振る舞いを明らかにするということが挙げられます.特に面白そうな研究として,無重力状態での燃焼というものがありました.通常私たちが地上で見るろうそくの炎は,上部が比較的尖っていて下部が緩やかなカーブを描くような形,言い換えると,卵を少し縦方向に引き伸ばしたような形をしています.しかし,重力がほとんど無い場所ではほぼ球の形をしているのです.このような現象を詳しく研究することによって,宇宙空間における燃焼構造および燃え広がり方を解明することにつながります.また,無重力状態での氷の結晶成長という研究も魅力的でした.日常生活では氷の結晶自体あまりお目にかかりませんが,小さい頃雪の結晶を顕微鏡などで観察して,いわゆる雪印マークを楽しんだ方もいることでしょう.そのような結晶は冷却とともに成長していきますが,その成長の仕方が地上と比べてどう違うのかということを解明する研究です.地上では結晶周辺に起こる液体の流れなどがあるため,結晶成長の過程が乱されますが,無重力ではそれが起きませんので精密な結晶成長の観察が可能となります.

この他にも,わくわくするような研究がいろいろありましたが,それらについては機会を見てブログに掲載したいと思います.宇宙開発に関わる予算が莫大なものであるのはご承知の通りですが,宇宙科学研究には欠かせないものです.一大学や一企業だけではとてもできるものではありませんし,一国だけでも難しいかもしれません.基礎科学研究は今すぐに役に立つ応用研究ではありません.しかし,それらの予算を削って目先の研究開発だけを行ってしまうと,将来の応用研究はどんどん先延ばしになってしまし,いざ必要になった時には手遅れという事態も招きかねません.海外への研究者流出を増やさないためにも,中長期的に見て重要な研究課題を正しく判断してもらえる学識者を国家予算審議の中核に据えて欲しいと思います.

2010年5月28日金曜日

ネット選挙解禁

昨日,「ネット選挙解禁与野党合意!」という記事があちこちで見られました.そんなことがいきなり実現するのかと目を疑い,かつ,興味深々に記事の内容を見ると,「何それ?」です.「ネット選挙解禁」と聞けば,誰だってインターネット経由で選挙投票ができることを想像するはずです.参議院選挙を間近に控えたこんな時期に,インフラも整っていないのにどうやってやるのか不思議でした.しかし,やはり期待は裏切られました.単にネット選挙運動解禁ということでした.しかも,とんでもない条件付きです.既にニュースを見た方もいるとは思いますが,少し中身を見てみたいと思います.

今回のネット選挙運動解禁のおもなポイントは,選挙期間中に政党と候補者のホームページやブログの更新を許可することです.しかし,電子メールの利用は見送られます.さらに,ミニブログともいわれるTwitterに関しては自粛ということで折り合いをつけたそうです.選挙期間中でも世の中は待ってくれません.時々刻々問題は起こり,即座に対処しなければならないこともどんどん出て来ます.それに対する,政党や候補者の考え方,対策等の発言を即座にできないというのは,果たして有権者のことを考えた選挙と言えるのでしょうか?1日,2日待ってもよい内容であればホームページやブログの更新程度でもよいでしょう.しかし,緊急事態への対応の速さが要求される政治家は,こういう時の迅速な判断・対応を評価されるべきで,Twitterや電子メールの活用は極めて妥当なもののはずです.正直,この対応は理解に苦しみます.

もうひとつよくわからないのは,Twitterの「自粛」です.自粛というのは禁止ではなく,また,どの程度までを自粛と呼ぶのか不明確です.政治家自身の発言に不明確な表現を用いること自体問題ですね.妥協案のつもりでこのような表現を用いたのかもしれませんが,妥協することと,あいまいな表現を用いることは違います.近々,具体的な運用方針を作成するということですが,どのような文章が出てくるのか目が離せません.新しいことに対して保守的になり過ぎるより,まずは実行してみて問題があれば改善する,というスタンスをとって欲しいものです.

2010年5月27日木曜日

つぶやきと景気の関係

最近Twitterの話題が多いのですが,そのサービス自体の話ではなく,サービスを利用するユーザの気持ちについて考えてみたいと思います.メディアでも取り上げられている通り,Twitterのユーザ数は1億人を突破したとも言われています.全ユーザが必ずネット上につぶやいているとは限りませんが,相当数のユーザがこのサービスに関心を持っているのは事実です.では,Twitterの魅力は何なのでしょうか?サービス自体が140字という制限が,気楽でちょうどよいという感想を持つ人が多いようですが,実際に140字ぎりぎりまでつぶやいている人は極少数で,ほとんどの人は他人の引用(リツイート)を除くと50字もつぶやいていません.もちろん,ブログの投稿に比べると気楽に参加できますが,字数の制限が最大の理由ではなさそうです.

Twitterの利用に関しては,携帯電話との関係を切り離すことはできません.相当数のユーザが携帯電話からつぶやいているからです.携帯電話からつぶやく理由は,通勤通学時の電車やバスの中等,ちょっとした時間を利用できるからでしょう.休憩するために入ったコーヒーショップでのつぶやきも同じような理由かもしれません.それらは,ある意味暇つぶしでもあるでしょう.しかし,面白いことにそのような時間帯につぶやいている人の中には,家に帰ってテレビを見ている最中,入浴中,さらにはベッドの中でさえつぶやいていることもあります.すなわち,暇つぶしではなく,つぶやかずにはいられないようです.すべてのユーザがこのように四六時中つぶやいているわけではありませんが,何らかの魅力があるからつぶやき続けているわけです.それは何なのでしょう?

考えられる理由の一つは,つぶやくことに対する誰かの返信や,リツイートされることを期待しているからでしょう.返信されたりリツイートされると,自分の発言が人の心を動かしたということを実感でき,それによってネット上での自分の存在意義を確かめられるからではないでしょうか?以前,数分おきに電子メールをチェックしないと気が済まない人が大勢いましたが,それも誰かからの返信や自分への何らかの誘い等,自分の存在意義を実感したいからなのではないかと思います.つまり,Twitterの魅力はつぶやくこと自体より,自分に関心を持ってくれたことを実感することにあると考えられます.

現在の社会においては,ただ単に与えられた仕事をこなすだけでは,雇い主からその人の必要性を感じてもらえません.かといって,いきなり自分のアイデアや能力をアピールできるようになるわけでもありません.そのようなときに,ネット上で何気なく自分の発言に興味を持ってくれる人を実感できるというのは,この上もない喜びなのかもしれません.人と人とが顔を合わせる実社会空間で,自分が必要とされているという実感がもてるようになれば自然と発言力も高まりますし,その充実感からもっともっとその力を伸ばそうと努力することでしょう.経済的に低迷した社会においてはビジネスの需要が少なくなり,それに伴って必要とされる人が減少しているという事実こそが,Twitterユーザ数を増加させた一番のきっかけかもしれません.自分を必要としてくれる機会が増えれば増えるほど,Twitterユーザが減るとまでは言いませんが,つぶやき数は減ってくるのではないかと思います.1日につぶやかれる回数やつぶやく人数を調査して,それなりの方法で解析すると,景気の低迷度や回復度が予想できるかもしれません.それはそれで,社会インフラとしての大きな役割です.

2010年5月26日水曜日

Bluetoothは生き残るか?

Bluetoothは多くの携帯電話にも実装されていますので,一度はこの名前を聞いたことがあるでしょう.しかし,実際に利用している人はそれほど多いわけではありませんので,どんなものなのか知っている人は少ないかもしれません.Bluetoothは半径10m程度の近距離をターゲットとした通信方式です.人間が数歩あるいて届く程度の通信範囲であることから,PAN(Personal Area Network)の技術として知られています.おもな利用方法として,iPodなど携帯音楽プレーヤとイヤホンを無線で接続,あるいは,パソコンとマウスを無線化する,などが挙げられます.そもそも,Bluetoothとはどのようなものなのか見ていきましょう.

歴史的には,デンマークの初代王の息子,ハーラル青歯王(ブルートゥース)がBluetoothの名前の由来となった人物であると言われています.名前はデンマークから来ていますが,通信方式の研究としては,スウェーデンの通信機器メーカーであるエリクソンの社内プロジェクト(1994年)がきっかけです.その後,1998年にエリクソン,ノキア,インテル,IBM,東芝の5社によるBluetooth SIG(Special Interest Group)が設立されました.このSIGにおいて作成されたBluetoothの仕様書には,「Bluetoothは移動体と固定の電子装置との間,また,それぞれの間のケーブルの代替を意図した短距離の無線リンクである.特徴として,強固で,単純で,低消費電力および低コストである.」と書かれています.要するに,近くにある電子装置間を無線で接続するとても優秀な通信方式ということになります.また,Bluetoothは電波を用いているため,障害物があっても回り込んで電子装置に届くので,赤外線などの光を用いた通信と比べると利便性が高いです.

しかし,なぜBluetoothはそれほど日常生活に浸透していないのでしょうか?それは,通信速度の遅さではないかと思われます.現在,1Mbps程度の通信速度しか対応していないため,デジタルカメラ画像やムービー画像を転送するのは時間がかかりすぎます.そのため利用方法が限定され,あまり目にすることがないまま今日に至っていると想像されます.次の世代のBluetoothは24Mbps程度に通信速度が引き上げられるそうです.しかし,10m程度の範囲において数百Mbpsの通信速度を提供するUWB(Ultra Wide Band)という通信方式が既に実用化されていますので,それには太刀打ちできません.もともとのコンセプトは素晴らしいのですが,無線環境においても著しいブロードバンド化が進んだため,Bluetoothの仕様自体に魅力を感じなくなってきました.桁違いの高速化,または,桁違いの低消費電力化を実現しないと,他の新しい通信方式と差別化するのが難しそうです.

情報通信環境は年々高速化が進んでいます.そのたびに新しい通信方式を開発するのもよいですが,既存の通信方式の居場所もしばらくは残しておいて欲しいものです.

2010年5月25日火曜日

Twitterでの広告配信

ついに始まってしまいました.Twitterでの広告配信,「つあど」.ブログや個人のホームページなどに広告を掲載し,閲覧者がその広告リンクを経由して商品の購入や会員登録を行うと,そのリンク元のサイト運営者が報酬を得るアフィリエイトというものがあります.このようなビジネスが,Twitterにもやってきたのです.Twitterユーザが企業からの広告を指定時間につぶやくと報酬をもらえるというものです.

この広告ビジネスはいずれ出てくると思っていましたが,実際に登場すると複雑な心境になります.Twitterのユーザが自分自身をアピールすることによってその人の価値を高める,つまり,Whuffieを増やすという概念はとても心地よく感じていました.自分自身を売り込むというビジネスには共感できるのですが,他人のためにそれを行う,あるいは,他人にそれを行ってもらって商売をするというのは,どうしても違和感があるのです.注目の高いインフラはビジネスになるという考え方はわかります.しかし,金銭的報酬を得るためにつぶやきが行われると考えると,なんだかむなしく感じてしまいます.広告を配信するTwitterユーザのWhuffieが下がるというわけではありませんが,広告配信能力の潜在性をアピールするために,やたらとフォロワー数を増やすというユーザが増えるのは間違いないでしょう.

Twitterの場合,広告を見るのが嫌な場合はそれを発信するユーザのフォローをやめてしまえばよいのですが,これまで支持してきたユーザやファンのツイートをTL(タイムライン)で見ることができなくなってしまうのはとても寂しいものです.それが嫌なら我慢して広告も見なさい,というサービスは受け入れられるのでしょうか?今後の「つあど」の評判に目が離せませんね.

「つあど」のホームページ:
http://twad.jp/

2010年5月24日月曜日

IMT-2000の嘘

現在,皆さんが使っている携帯電話のほとんどが第3世代(3G)であることはご存知のことでしょう.国際電気通信連合(ITU[1])はこれを「IMT-2000[2]」という名前で規格化しました.”2000”という名前がつけられた理由は3つあります.西暦2000年のサービス開始,使用周波数帯が2000MHz帯(2GHz帯),そして,データ通信速度が2000kHz(2Mbps)ということです.そして,IMT-2000を国際標準とするために1つの方式で規定しようとしていました.

ところが,実際にサービスが開始されたのは2001年.これはNTTドコモが世界に先駆けて行いました.しかし,当時の技術ではデータ通信速度は2Mbpsも出ませんでした.また,使用周波数帯も2GHz帯だけでなく,800MHz帯,1.7GHz帯,さらには,2.5GHz帯にまで及ぶこととなりました.そして,国際標準として規格化されたのは1つの方式ではなく,なんと5つの方式です.IMT-2000がやろうとしていたことはほとんど実現されなかったのです.こうなってしまったからでしょうか,いつの間にかIMT-2000という言葉は死語となり,3Gと呼ぶのが一般的になったように思えます.

このように,国際標準というものは,なかなか当初の予定通りにうまくいくものではありません.政治的問題,文化の問題,技術の問題,特許の問題等さまざまな要因が重なり合って1つに決めることができず,妥協した結果マルチスタンダードとなってしまうのです.結果的に1つに絞ることができないのであれば,国際標準と呼ぶのはやめた方がよいですね.

現在の携帯電話は,3.5Gが主流になっており,今年度中には3.9Gのサービスが開始される予定です.3.9GはLTE[3]ともよばれ,4Gへの移行を意識した3Gの最終形です.もちろん,4Gの国際標準化も進められている最中ですが,IMT-2000のようにマルチスタンダードではなく,本当に1つの方式で標準化され,同じ携帯電話端末を用いて全世界何処へ行っても同等のサービスが受けられるようになることを期待します.

略語の説明:
[1] ITU: International Telecommunication Union
[2] IMT-2000: International Mobile Telecommunication 2000
[3] LTE: Long Term Evolution

2010年5月23日日曜日

GoogleTVへの不安と期待

インターネット検索エンジン大手のグーグル,コンピュータの心臓部であるCPU(Central Processing Unit)で有名なインテル,そして,日本の電機メーカーであるソニーがGoogleTVの制作で提携するとの発表がありました(2010年5月20日).GoogleTVとは,テレビでWebサイトを閲覧したり,また,コンテンツを検索し,視聴および録画をできるようにするものです.

このニュースで面白いのは,日本のメディアのほとんどがグーグルとソニーが提携する,ということだけ述べており,インテルの名前が出てこないことです.インテルはこのGoogleTVでAtomというCPUを供給するそうです.インテルの役目はわかりやすいので,グーグルとソニーの役割について見ていきましょう.

GoogleTVにおけるグーグルの強みは,検索技術,広告スペース,AndroidというOS(Operating System),クラウドコンピューティング,そして,傘下のYouTubeというコンテンツです.一方,ソニーの強みは,テレビというハードウェア,そして,映画などのコンテンツです.そう考えると,これらが結合されて提供されるサービスは予想がつきます.すなわち,テレビ番組,映画やYouTubeコンテンツの検索とその視聴および録画,そして,それらのコンテンツサービスと録画場所の提供としてクラウドサービスを使うということになるでしょう.

では,これらのサービスは魅力的でしょうか?テレビでWebコンテンツを見るだけなら既存のテレビも対応していますし,電子番組表を用いてコンテンツの検索ができるレコーダーも既にあります.また,予想されるサービスに関してもパソコンにテレビチューナーを搭載すればすべて可能であることは自明です.そのような状況で,あえて,GoogleTVなるものを制作して意味があるのでしょうか?そして,気になるのはソニーの役割です.もしかすると,モニタの提供と映画コンテンツのライセンス提供だけなのではないかと感じます.モニタに関してはもはや価格破壊が起こっていますので,ソニーにとってはあまりオイシイ商品とは考えられませんし,GoogleTVサービスのためにCATVのようなセットトップボックスを用意するとしても価格はそれほど高いとは思えません.先に述べましたが,このサービスはパソコン上では既に実現できる環境は整っているので,やはりソニーの出番がほとんどなさそうです.Androidを用いた携帯電話とのコンテンツ連携に関しても,現在の技術をテレビに移行するだけです.そう考えると,グーグルはソニーというブランドだけが欲しくて提携したのではないでしょうか?

このように考えると,GoogleTVの魅力は何なのか今ひとつよくわかりません.しかし,グーグルが何の戦略もなしに新しいサービスを行うとは考えられませんので,何かワクワクするような,そして,次世代インターネットライフのさきがけとなるような世界を提供してくれることに期待したいものです.