2010年6月12日土曜日

携帯電話世代の生活

私が大学生だった頃,携帯電話なんてありませんでしたし,大学の研究室でさえインターネットに接続されたコンピュータは1台もありませんでした.それほど昔の事ではないと思っているのですが,どのように日々の生活を送っていたのか思い出せないのが不思議です.友人と連絡を取るためには自宅の固定電話に電話をしていたのだと思いますが,よく覚えていません.また,旅行に行く時はどのように目的地を決め,どのようにホテルを予約し,そして,どのように目的地まで間違えずにたどり着いたのか謎です.おそらく,当時はガイドブックを買ったり,旅行代理店を訪問したのだと思うのですが,不思議なくらいその記憶がありません.

大学卒業までインターネットと携帯電話に触れたことがない私ですらこのような状況ですので,生まれた時には既にこれらが存在する環境で育った世代の人達は,私達の学生時代の生活など見当もつかないことでしょう.

では,携帯電話はコミュニケーション文化をどのように変えてきたのでしょうか?ここでいうコミュニケーションとは人と人とのコミュニケーションのあり方を指します.携帯電話はあくまでも電話ですが,ほとんどの場合個人を特定できる通信手段ですので,電話がかかってきた時に「もしもし○○です」とか,電話をかけた人が「もしもし○○ですが,○○さんですか?」などと言う必要がなくなりました.つまり,「電話がつながった=目的の相手と話せる」という方程式が成り立つのです.これは大きな変化ですね.同様のことが電子メールにもいえます.

これからわかることは,携帯電話は自分を名乗るという行為を必要としないコミュニケーション文化を作りだしたということができます.しかし,これがいつでも通用するというわけではありません.学生からの電子メール本文には,誰宛か(to)本文に書かれていないものが多く見られますし,誰から(from)かということも書いていない場合もあります.学生の場合は学籍番号を電子メールアドレスに使っている場合がほとんどなので調べればわかりますが,携帯電話の電子メールで送信者のアドレスが意味不明である場合にはコミュニケーション自体が成立しません.

このように,携帯電話世代のコミュニケーション文化では,わざわざ名乗らなくても相手が誰であるかお互いにわかっている,というのが大きな特徴です.友達どうしや家族間のコミュニケーションであれば携帯電話のアドレス帳にお互いの情報が存在していて,本文にfromとtoの情報がなくても自動的に表示してくれますが,それ以外の場合はコミュニケーション不可となります.この文化が悪いというつもりはありませんが,せめてコミュニケーションが成立するよい方法はないでしょうか?一番簡単なのは,誰だかはっきりとわかる電子メールアドレスを利用することです.現在は日本語を用いることができませんが,例えば,「佐藤良介@中島研究室.情報通信工学科.理工学部.天地大学.日本」などであれば簡単に誰だかわかります.会社や大学などの組織は階層化されているのでこのようなアドレス構成が可能ですが,英単語でしかも短縮されていたりするとすべてを予想することはできません.もちろん,日本語は他国では通用しませんが,せめて日本人どうしのやり取りではどこかでこのような名前に変換してくれてもよいのでは・・・.と,つまらないことを考えてしまいました.

2010年6月11日金曜日

30年後の科学技術

今から30年後の未来,科学技術はどのような幸せを私達にもたらすのでしょうか?

2010年6月10日,文部科学省の科学技術政策研究所は,様々な分野における未来予測を発表しました.これらの予測は大学の教員や企業の技術者からのアンケートを通して検討されたもので,5年毎に調査が行われているそうです.

本調査によると,2030年に血管の中を移動できるマイクロセンサによる医療技術,テレビや本の感想を語り合える知能ロボットの開発が,また,2031年に地球周回軌道の宇宙観光旅行が実現されるそうです.さらに,2033年にiPS細胞で作った人工臓器が,2040年に有人月面基地が実現されるとのことです.

どうやってここまで細かい実現時期を予測したのかはわかりませんが,こんなに時間をかけなければならないという結果には唖然としました.時期の予想に関しては科学技術の進歩だけではなく,経済状況も加味されているなら納得しますが,そうでなければもっと早く実現しそうに思えます.

もっと身近なところでは,2025年に1回の充電で電気自動車が約500km走れる高性能電池が実現できるとありました.しかし,電気自動車のベンチャーであるアメリカのテスラ・モーターズは,昨年オーストラリアで1回の充電で500km以上の走行を成し遂げています.いったいどういう予想をしているのか疑わしいものです.

いずれにしても,科学技術の発展によって私達の生活が裕福になるのであればそれに越したことはありません.30年かかるといわれていることが3年で実現されるというサプライズがあってもいいですね.

2010年6月10日木曜日

3Dディスプレイの将来

2010年は3Dディスプレイ元年ともいわれるように,各社3Dテレビの製品発表会が頻繁に行われています.そのなかでも,2010年6月9日に発表になったパナソニックの3Dディスプレイはとんでもない化け物です!なんと,世界最大152型フルハイビジョンディスプレイなのです.高さ180cm,幅340cmというからびっくり.152インチディスプレイの幅が340cmといわれても,これ自体想像できる人はあまりいないでしょう.50インチのテレビ画面で考えると,それが9画面集まった大きさです.そんな大きいのが家の中に運び込めるのでしょうか?そして,どのような人が買うのでしょうか?このディスプレイは7月1日から「受注」生産し,価格は5000万円以上だそうです.

最近,40インチ以上の大型液晶テレビが飛ぶように売れており,家電量販店に行くと1年前に比べるとラインナップが明らかにインチアップしています.それもそのはず,52インチの液晶テレビが15万円ほどで買える世の中になったのですから,家が少々小さくても大きい方を買ってしまうのでしょう.そのようなテレビの陳列にまぎれて,3Dディスプレイも何台か置いてあり,専用メガネを用いて3D映像の体験ができるような店も増えました.私も近所の家電量販店で3D映像を見てみました.確かに凄かったです.しかし,ふと,デジャヴュかと思ってしまいました.いや,デジャヴュなんかではなく何十年も前にこのようなメガネをかけて立体映像を見ていました.左右2つのカメラで撮影された映像を合成することによって立体的に映し出す技術はかなり昔から存在していました.その映像を専用メガネで合成して人間の脳には3D映像が映し出されるのです.そう,ディズニーランドにはこのようなアトラクションが何十年も前からありましたね.そう思った瞬間,急に熱が冷めてしまい,専用メガネをはずすとピンボケの映像がディスプレイに.これもまた,ディズニーランドで体験したものと同じです.

ここでお話したいポイントは2つです.ひとつ目は専用メガネをしていない人がこの映像を見ても,ピンボケ映像が見えるだけで全く面白くありませんし,メガネをすること自体鬱陶しいです.ふたつ目はこのような立体映像のコンテンツがテレビ局から放送されないと3Dテレビの価値がないということです.現在,一部のBS放送やケーブルテレビの有料チャネルで3Dコンテンツの配信が始まっていますが,ほとんど存在しないといって間違いないでしょう.

このような状況を考えると,3Dコンテンツはテレビ向けではなくインターネットコンテンツ向けではないかと考えてしまします.現状では3Dコンテンツを作るだけで2Dと比べると余分なコストがかかるわけですから,すぐには無料コンテンツにはならないでしょう.つまり,オンデマンド配信を利用したインターネットコンテンツとしてサービスを始める方が自然です.オンデマンド配信であれば,ユーザは通常のテレビ放送とは異なることを理解していますので,少額であれば有料であっても視聴するでしょうし,専用メガネの装着もその時に限るのであれば我慢できると思います.近い将来,GoogleTVなどでテレビコンテンツがすべてオンデマンドになった場合,通常のテレビ放送という概念が無くなってしまいますので,その時は専用メガネの装着は耐えられなくなるでしょう.しかし,その頃には,専用メガネを使わなくとも3D映像を見ることができるディスプレイが開発されているかもしれません.

2010年6月9日水曜日

iPhone4の隠れた凄さ

2010年6月8日,米アップル社の最高経営責任者であるスティーブ・ジョブズが,サンフランシスコで開催されたWWDC(Worldwide Developer Conference)で新型iPhoneの発表を行いました.6月24日から発売を開始するそうです.新型iPheneは「iPhone 4G」とか「iPhone HD」という名前で噂されていましたが,「iPhone4」という名前になりました.これに関しては正直ホッとしました.4Gというと携帯電話の第4世代と混乱しそうですし,ディスプレイもハイビジョン映像に適した画素数が無いのにHDという名前が付いていたので違和感がありました.とはいえ,画面の画素数は縦,横それぞれが2倍,つまり,総画素数は4倍にもなったため,高画質映像を表示できることには違いありません.

iPhone4についての情報がインターネット上のあちこちで見られ,その新しい機能を絶賛しています.先に述べた高解像度の画面,24%も薄くなった厚み,高性能プロセッサ,長寿命バッテリ,ジャイロスコープ,高解像度カメラとLEDフラッシュ,デジタルズームなど,現行モデルの「iPhene3GS」と比べると明らかに高性能かつ多機能になりました.ここまでは多くのニュースで語られている話ですが,これ以外に目立ちはしませんが重要な新機能が加わっています.それは,HSUPAという通信方式に対応したことです.HSUPAはHigh Speed Uplink Packet Accessの略で,HSDPA(High Speed Downlink Packet Access)と合わせてHSPAと呼ばれており,3.5Gの携帯電話通信方式として注目されています.HSDPAは下りの回線,すなわち,基地局から携帯電話方向への通信速度を高速化するもので,ストリーミングサービスなど容量の大きなコンテンツの再生に適しています.iPhone3GSはこのHSDPAには対応していましたが,上り回線,すなわち,携帯電話から基地局への通信速度を高速化するHSUPAには対応していませんでした.それが今回のiPhone4で対応するようになったのです.これこそがiPhoneなどスマートフォンにとってキーとなる技術ではないかと考えています.

では,なぜHSUPAが重要なのでしょうか?上り回線の高速化は個人ユーザによるストリーミング配信サービスを可能とします.ストリーミング配信サービスとしてUstreamが有名ですが,スマートフォンに「Ustream Live Broadcaster」という無料アプリケーションをインストールすれば,Ustreamのインフラを利用して個人ユーザが簡単に,いつでもどこでもストリーミング配信サービスを行うことができるようになります.例えば,野外スポーツ競技の生中継,出張先からのリモート授業,さらには,国会中継さえも可能となります.これまでは上り回線があまり高速でなかったためにiPhoneからのライブ映像配信はぎこちないものでしたが,HSUPAに対応したことでかなり高品質なものになると思われます.近いうちに,数えられないほどのライブ映像配信サイトがインターネット上に現れることでしょう.もしかすると,これがTwitterの動画版という形で発展するかもしれませんよ.楽しみにしましょう.

2010年6月8日火曜日

アレルギーからの解放近し

種類は様々ですが,アレルギーに悩まされている人は数え切れないほどいます.目に見える皮膚の炎症や痒み,本当にたまりませんね.そのようなアレルギー体質の人には朗報です.2010年6月6日発行の専門誌,ネイチャー・イムノロジー(Nature Immunology)に筑波大学大学院の渋谷彰教授らのグループが素晴らしい研究成果を発表しました.なんと,花粉症,喘息,アトピー性皮膚炎など,すべてのアレルギーの発症を抑制するタンパク質(「アラジン1」と命名)を発見したそうです.

アレルギー疾患を持ったことがある人は,「抗ヒスタミン薬」という言葉を聞いたことがあるでしょう.アレルギーの元となる抗原が人間の体内に入ると,ヒスタミンなどの化学物質が多く放出され,それが化学反応を起こすことで炎症などの症状が出ます.ヒスタミンの化学反応を抑制するのが抗ヒスタミン薬ですが,この薬だけでは完全には化学反応を抑えられません.渋谷教授らはヒスタミン等の化学反応を抑制する薬の開発ではなく,化学物質の放出自体を抑制するという方法をとり,それを可能とするタンパク質を発見したのです.アレルギーを引き起こす化学物質の放出を抑制することができれば,その化学反応によって引き起こされるアレルギー反応を根本的に抑制できるということです.すべては元を断たなければならないという,基本に戻ったアプローチが功を奏したのです.

ここで面白いと思ったことは,このニュースの報道のされ方です.朝日新聞社のホームページサイト(asahi.com)では,「すべてのアレルギー疾患の発症を阻止できる」という表現を用いていました.「すべての」という言葉を使う以上は本当に「すべて」を意味するのでしょう.しかし,どうやってすべてのアレルギー疾患を調べたのでしょうか?本当にすべてのアレルギー疾患を調べることができるものなのでしょうか?とても気になったので,他のサイトも見てみました.読売新聞社のホームページサイト(YOMIURI ONLINE)では,「さまざまなアレルギー反応を抑え込むたんぱく質・・・」,「ほとんどのアレルギー反応を根本から抑えられる・・・」という表現を,毎日新聞社のホームページサイト(毎日jp)では,「さまざまなアレルギーに共通する薬の開発につながる・・・」という表現を,それぞれ用いていました.実際にはどうなのかと,ネイチャー・イムノロジーのサイトをチェックしてみると,この論文のアブストラクト(概要)が掲載されていました.読んでみるとこの疑問に対する答えとなる表現は書かれていませんでした.本文を見るためには課金されるようでしたので諦めました.

どれが正解かはわかりませんでしたが,この発明によって大変多くの人がアレルギーから救われると思うと,「すべてのアレルギー疾患の発症を阻止できる」,であることを祈ります.

2010年6月7日月曜日

予期せぬ発見

ある書類を探していると,以前に探してもなかなか見つからなかったも別の物が偶然見つかったという経験談を良く耳にします.このような発見をセレンディピティといいます.別の例ですが,アメリカで潜水艦の機関音を捉える実験をしていたところ,明らかに潜水艦からではない規則的な音が聞こえてきました.それについて詳しく調査してみると,その音源はイルカでした.この実験の最中にイルカの交信が潜水艦の機関音と同じ周波数であることを発見したのです.

セレンディピティは「棚からぼた餅」のような物語に聞こえるかもしれません.しかし,良いことばかりとは限りません.例えば,メールボックスに溢れんばかりに溜まった電子メールを整理していると,ある重要な〆切が昨日であったことを知るメールに遭遇し,真っ青になることもあります.

良いことであれ,悪いことであれ,セレンディピティを経験しやすい人と経験しにくい人がいるようです.経験しにくい人は,目の前にある情報に気付かない鈍感な人なのかもしれません.では,どちらの方が幸せでしょうか?欲張りな人は,良いことも悪いこともセレンディピティを受け入れ,「知らぬが仏」タイプの人は興味もないかもしれません.私は現実をすべて受け止めたいので悪い発見も含めセレンディピティを歓迎します.というのも,自分にとって関係がある情報が,自分の意思とは別に向こうから飛び込んでくるなんて,この上もない素晴らしい現象だと感じるからです.ここで,「現象」という言葉を用いました.セレンディピティは「現象」と捉えるのが理解しやすいと思います.

では,この現象を起こりやすくすることは可能でしょうか?先に述べましたが,鈍感な人には起こりにくく,常にアンテナの感度を高めて生活している人には起こる確率が高いと思います.期限の切れた仕事を偶然に発見してしまうのは最悪ですが,今,やっていることとはまったく関係のない発見に出会い,それによって新しい人生が開ける可能性があることを想像するとワクワクしてきます.予期せぬ発見,これを制御できるようになったら予知能力を持つことになるのかもしれませんね.

2010年6月6日日曜日

勉強と研究の違い

「研究が好きだ」という人は多いですが,「勉強が好きだ」と他人の前で堂々と言える人は少ないのではないでしょうか?おそらく,「勉強」というと学校で習う科目をイメージして,それが好きだと言うとガリ勉と思われるのではないか,自分の評判を落とすのではないかと考え,恐れて口に出せなくなるのでしょう.では,勉強と研究との違いは何でしょうか?

「卒業研究で今何やっているの?」と聞かれて,「プログラミングの勉強をしている」と答える人は勘違いしています.研究とは,未知のことを解明するためにアイデアを練ったり,新しい発見や発明のため思考することであると言えます.一方,勉強とは知識の習得ですので,既に存在しているが自分が知らないことを学ぶことです.したがって,プログラミングができるように勉強するのは研究ではなく,既に存在していることを自分の知識として学んでいることです.

日本の学校教育では,勉強する=学校のテストの点をよくする=よい進学,というような方程式が出来上がっていて,学校の成績が良くなるような行為を勉強と捉えてしまいます.ここが問題です.しかし,社会に出てみると,対人関係が勉強になったとか,人生が勉強だとか,経験そのものを勉強と考えるようになります.経験もそれまで知らなかったことを体験することで得る知識ですので,まさしく勉強です.そう考えると,勉強が好きであると口にするのは素晴らしいことです.しかし,「いろいろな経験が役に立つ」とか,「いい経験をした」と言うことはあっても,「経験が好きです」とは言わないところが面白いですね.

研究とは,ある目標に向かって自主的,積極的に働きかけて行う行為であるのに対して,勉強は受動的にやったりやらされたり,いつの間にかやっていたり,もちろん,積極的に行う場合もあり,幅が広い行為(現象?)です.それゆえ,「人生は勉強」という言葉があるのでしょう.「人生が研究」というと,なんだか恐いですね.