私達は目という感覚器官を通して3次元構造の様子を見ることができます.このような現象を視覚と言うのはご存じのとおりです.外界の3次元映像が光となって網膜に像を結び,その信号が視神経を経由して脳で理解されるためにその様子を知覚します.ところが,網膜像は2次元構造なので,もともとあった3次元の情報は失われています.しかし,脳はその2次元情報から3次元情報を作り出しています.次元の低い情報から次元の高い情報を生み出すことは理論的に不可能であり,そのような問題を不良設定問題と呼びます.2次元情報を無理やり3次元の情報に作り変えるには何らかの仮定を設定しない限り不可能なのです.しかし,視覚に関するこのメカニズムは現在解明されていません.
外界の3次元構造から2次元の網膜像を得ることを光学,逆に,2次元の網膜像から外界の3次元構造を推定することを逆光学と言うことがあります.そして,後者を視覚情報処理とも呼びます.視覚情報処理では,触った感覚などこれまでの経験から,2次元情報の意味する内容を仮定し3次元に変換しているのかもしれません.どのような仮定があるのかははっきりしませんが,実際に私達は奥行きという情報を視覚によって得ていますので,「何か」は必ずあるのでしょう.しかし,もしそれが本当に経験に基づく仮定だとすると,私達が見ている3次元構造は実物なのでしょうか?もしかすると全く異なるものなのかもしれません.ある研究で,上下左右が反対に映るメガネを何日もかけて生活するという実験をしたところ,最初,被験者は気がおかしくなりそうだと言っていたようですが,次第に慣れて通常の生活ができるようになったそうです.この実験結果からも,実際に視覚によってもたらされた映像が実物と上下左右が反対だとしても全く問題ないことがわかります.
このように考えると,人間の五感といわれるものは単なるセンサにすぎず,実際は予想もできないような変なものを感じているのかもしれません.しかし,私達がそれを知ることができない以上,そんなことあり得ないと言い続けることも可能なのでしょう.真実とは一体何なのでしょうかね?
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