「あれっ?これってすごく懐かしい!」,と何度口に出したことでしょう.最近,大学生が使っているパソコンや携帯音楽プレーヤから流れてくる音楽を聴くと,20~30年前に流行った曲であるということが多いです.何故そのような曲を知っているのかと聞くと,アニメの主題歌であったり,インターネットで何気なく紹介されていて気に入ったとか,さらには,カバーされた曲のオリジナルだったりとかが理由だそうです.面白いことに,自分の親が聴いていた曲だったから,という人はひとりもいませんでした.このようにして出会った音楽は時代的には古くても,彼らにとっては新しい音楽なのでしょう.
「古くて新しい音楽」という現象が起こっているのは,音楽がデジタル化されて音質が劣化せずに今日でも聴くことができる,というのも一つの理由でしょう.CDが無かった時代では,音楽はレコードというメディアで供給され,それをカセットテープに録音して聴くというのが一般的でした.しかし,このようなアナログ世代の音楽は,今聴くと明らかに音質が悪く,それ自体が古さを感じさせてしまい,人によってはそのような音楽を受け付けなくなってしまうことがあります.しかし,CDというデジタル世代に作られた音楽は,メディアが変わったとしても当時の品質が保たれているため,古さをあまり感じないのでしょう.
このような品質に関わること意外に,音楽の販売方法に関しても大きな違いがあります.インターネットで音楽を購入するようになる前は,CDという十数曲がパッケージ化されたアルバムという形で音楽を購入するのが一般的でした.ところが,インターネットによる音楽のダウンロード販売が開始されると,音楽は曲単位で買われるようになりました.それもそのはず,あまり好きでもない曲を含むアルバムを買うくらいなら,気にいった曲だけを買えばよいというのは極めて合理的な判断です.このような販売の仕方を考えると,アルバムという概念はあまり重要ではなく,歌手名や音楽の種類を中心に曲が選ばれるようになります.そうなると,たとえ何十年も前の曲でも,音楽の種類で検索するとそれらがリストに入ってきます.何気なくそれらを視聴してみると自分の好みと一致して,誰が歌ったとか,いつの歌だとか関係なく購入するということがあたりまえになります.これによって,発売時期は古くても本人にとっては新しく発見した音楽ということになります.
このように考えると,有名歌手というブランドや発売された時期などに左右されるような音楽の視聴方法は減ってきて,自分が気に行ったものを買うという,本当の意味で個人の嗜好が反映された音楽の楽しみ方が一般的になってきたといえます.アマゾンなどのオンライン書籍販売において,売れどころの本だけが収入源ではなく,莫大な量の昔の本や少しのユーザにしか売れない本による収入が大きな利益を生み出しているという,「ロングテール」という現象があります.これは,書店のように限られたスペースにすべての本を保存する必要が無くなったオンライン書籍販売ならではの現象です.これと同じことが音楽のオンライン販売にも起こっているということができるでしょう.デジタル化された情報であれば,「もの」は一つだけ電子的に存在すればよく,あとは購入者がそのコピーをダウンロードするだけなので場所を取りません.もちろん,情報を保存するためのハードディスク容量はさらに大きくしていく必要がありますが,小型化の技術や大量生産の恩恵に預かり,ハードディスクのコストは無視できるほど小さくなります.本当に良い時代になりました.
すべての古いメディアがデジタル化されて,新しいメディアとともに同じ電子の棚に並べられるかどうかはわかりませんが,これまで以上にそれが増えていくのは間違いないでしょう.その時必要になってくるものは,とてつもなく多くのメディアから一番よいものを中身を見ずに選択することができる技術,ということになるでしょう.
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